松下幸之助著『人間を考える』刊行50年 宣言文


世界では今、軍事的緊張や政治的対立への不安が高まっています。国際経済に大きな混乱がもたらされ、その余波は私たち一人ひとりの暮らしに影を落としています。いつになれば世界中の人びと皆が安心して豊かな生活を送ることができるのでしょうか。

PHP研究所の創設者・松下幸之助は、昭和の戦争に伴う混乱を経て、本来は繁栄・平和・幸福の実現を望んでいるはずの人間が、互いに争いを繰り返し、みずから不幸や貧困を招来している姿に強い疑問を覚えました。そして、人間を弱く愚かな存在とみなす旧来の見方に問題の真因があると考え、1972年(昭和47年)に『人間を考える』を出版、「新しい人間観」を提唱しました。

幸之助はその中で、「人間は万物の王者である」と言明し、物心一如の繁栄・平和・幸福を実現するに値する力強い人間像を提示しました。人間が自らの偉大さを自覚すべきであると訴えるとともに、個々の知恵には限りがあり、衆知、すなわち古今東西の叡智を結集して大きな力を発揮すべきことも強調しています。

『人間を考える』の刊行から50年たった現在、科学技術の飛躍的な進歩によって、私たちの生活は豊かになりました。その一方で、世界的な貧富の格差、新たに生み出される差別や偏見は、人類が抱えていた矛盾を浮き彫りにし、拡大し続ける人類の活動は、地球環境に深刻な影響を及ぼしかねないと懸念されています。私たち人間が繁栄・平和・幸福の担い手であると自認するには、ほど遠い状況だと言わざるをえません。加えて、人工知能やバイオテクノロジーの発展は、「人間らしさとは何か」という新たな問いを私たちにつきつけています。

しかしながら、人間は今日まで繁栄・平和・幸福の実現を希求し、乗り越えることが不可能と思われた数多くの難題を克服してきました。現代に生きる私たちも、目下直面している大きな困難を打開しうる優れた特質を持っているはずです。本来の責務を自覚し、手を携えて衆知を集めることに徹すれば、人間はその偉大なる力を発揮し、理想社会の実現に向けてゆるぎなく邁進できるでしょう。

今こそ、私たちは人間が持つ無限の可能性を信じたい。PHP研究所は現代にふさわしい人間観を模索しながら、繁栄・平和・幸福の実現に尽力してまいります。


令和4年8月
株式会社PHP研究所

※ご参考:松下幸之助「新しい人間観の提唱」


松下幸之助著『人間を考える』


混迷を深め、人間が自らを見失いつつある現代。今こそ「人間とは何か、そしていかに生きるべきか」を問い直すときである。著者がたどり着いた究極の哲学とは?
松下幸之助著『人間を考える』はPHP文庫、PHPビジネス新書で刊行されています。