PHP研究所主催 2024年度文部科学省後援
第8回PHP作文甲子園 優秀賞受賞作
須藤栄美
クラーク記念国際高等学校2年(受賞当時)
からんからん。手のひらサイズで円柱の形をしていて、側面には6本の棒が隙間を空けて並んでいる。中には小さな鈴が入っている。やわらかな木でできたそれは、鳴らすたびに私の心のやわらかい部分をやさしく刺激する。鈴がころころと中を動き軽い音を鳴らす。きらびやかな宝石やまぶしいくらいのアクセサリーが並ぶ中で、木の質感はひときわ異彩をはなっている。
私の宝物は大好きな祖母にもらったそのおもちゃだ。祖母は小さな雪の降る町に住んでいて、長い髪にパーマをかけ、ビビッドなスーツを着こなし、ものすごく大きな石をのせた指輪を選ぶようなセンスの人であった。
私は小さいころからずっとそんな祖母が大好きであった。彼女が最初に私に選んでくれたものが、そのおもちゃだ。私はそれを何度も何度も鳴らし、そのたびに一緒によろこんでいた。彼女がピアノを弾くときには横に座り、大好きなパン屋さんに行くたびに2人でレーズンパンを選び、そしてまた横でおもちゃを鳴らすのだ。うれしいねえ、なんて笑う彼女の姿は、私の中に強烈な足跡をのこしている。
彼女が去ってしまったとき、私はそれをひとりで鳴らさなくてはいけなかった。それを鳴らすことは義務なんかではない。ただ、そうすることが自分と天国にいる祖母をつなげてくれるのではないかと思ったのだ。部屋の角にある棚に近づき、持ち上げる。それを手に取り鳴らすとき、私はどうしようもなくさみしく、かつうれしい気持ちになる。軽い音が鳴るたびに、私はこのさみしさに貫かれてしまうのではないかと思う。
祖母がのこしたこの音は、あなたを思い出せてうれしいという気持ちと、あなたがいないことに対する悲しみの両方を含んでいる。この相反した気持ちは、一生私の中にこのおもちゃとともにあり続けるだろう。彼女の音を、彼女がのこしてくれた音を忘れないために、私は今日もまたそれを鳴らすのだ。