月刊「PHP」2025年5月号 裏表紙の言葉

皐月の空に翻る鯉のぼり。川面や田園に何百匹も泳ぐ壮大なものから、民家の庭先で健気になびくものまで、場所ごとに趣があり胸がはずむ。

その由縁は中国は後漢の時代。黄河の竜門という急流を、何種類もの魚が遡ろうとしたが登れず、鯉だけが登りきり竜になった。登竜門の言葉の由来もそこからだそうだ。

時は流れて江戸時代、ある商家が登竜門の故事にあやかって、小さな旗に鯉を象ったものを付け、店先に掲げた。それが流行って次第に大きくなり、今の姿になったという。

晩春は水と空の青色が最も近い時節とされ、空を水と見立て鯉を泳がせた感性は、日本人の美意識と想像力の賜物ともいえよう。

その高く泳ぐ姿を見て、「風のえさをいっぱい食べて元気そう」とか「親子で仲よく泳いでる」と子供たちが言うのは、豊かな情緒を育んでいるからではないだろうか。

昔は墨一色だった鯉のぼりは200年のうちに色彩豊かになった。今後も変化があることだろう。しかし、子供たちの成長を願うその気持ちは変わらず受け継いでいきたい。

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