月刊「PHP」2024年11月号 裏表紙の言葉
生きているうちに、あまり体験したくないものに後悔があろう。失敗、失態、失意が人に訪れるとき、思い当たる因果があれば、誰でも人は後悔の念にかられる。ただ、後悔とはそれほど悪いことなのだろうか。
生涯無敗とされる剣豪宮本武蔵に、「われ事において後悔せず」という言葉がある。達人の自分は常に覚悟の上に行動しているから後悔とは無縁だという見方のほか、別の解釈もありうる。
それは、勝つことを至上としたため情を捨て、犠牲を払い、実は後悔が山のようにある。ただ、その一つひとつを自責するのは愚と悟り、後悔する自分もまた受け容れて、本当の自分を生きよ。そんな宣言とも読み取れはしないか。
そう考えれば、私たちは後悔のたびにそれを糧として、深みのある人へと成長してゆける。
人生の禍福はあざなえる縄の如し。変転は激しい。であるならば、後悔もまた人生の一部と最初から捉えることだ。とすればおのずと、飽くなき挑戦を続ける姿勢はより尊いものとなろう。後悔を減らす最善の策は実はそこかもしれない。