PHP研究所主催 2023年度文部科学省後援
第7回PHP作文甲子園 優秀賞受賞作

加藤正幸
愛知県・海陽中等教育学校1年

この世界は広いんだ。どこまでも広がる雲海、何度見ても息を呑む。

僕は小学2年生で初めて富士登山にチャレンジした。どれだけ仕事が忙がしくても父は夏の楽しみにしている。そんな父に誘ってもらえたことがとてもうれしく、大人になっていいんだよと言ってもらえたような気がした。

しかし、僕は初めての登山で高山病になり、とても苦しくて、途中の七合目で断念した。本当に悔やしくて、いい思い出ではなかった。一週間後に再挑戦したが、やはり体力がなく八合目で断念。まだ自分は大人のようにはできないと思い知らされた。

翌年は、黒い雲が広がり、登っていくにつれ天気が悪くなり、中止と判断された。「いつになったら山頂まで登ることができるのか」と焦る気持ちがつのっていった。その二週間後、今までにないやる気と高ぶる気持ちで挑戦した。初めて九合目まで辿り着き、万年雪山荘で一泊した。あのカレーのおいしさは今でも忘れられない。何よりも、九合目からもっと上に登っていく道中で、すれ違う人、追い抜く人に「がんばれ」と声をかけてもらったことがうれしかった。はずかしさと同時に、声をかけてくれる人たちから温かい気持ちが伝わり、山頂まで行くんだという勇気がどんどんわきあがった。

少しピリッとした冷たい空気、どこまでも広がる雲海、夜中に凍った氷が火口でキラキラしていた。こんな世界があるのかとおどろくばかりで、達成感で泣きそうになった。

6回目の今年は、「ゼロ富士」という海抜ゼロメートルから山頂までの長い道のりを、バスにも乗らず、雨の中でも歩き続けた。

口数の少ない父の呼吸と自分の呼吸の中で、過去や将来、そして今を考えて歩く時間は初めてだった。前回を超える体験をした。つらくてもそれを乗り越えたときに見える景色は毎回違う。それを教えてくれる富士山が大好きである。

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