月刊「PHP」2024年6月号 裏表紙の言葉
いつも自分に寄り添いながら、いざというときに期待を裏切る。どうしてあいつは現れるのだろう。
人と話し合いをしているとき、大事なところで顔を出し、わがままばかりを言うあいつ。お前さえいなければ、いや、あともう少しだけ大人しくしてくれたなら、事はうまく運んだに違いない。どうして、いつも我慢ができないものなのか。
計画を立て、何とか地道な努力が実って軌道に乗ったと思うころ、やっぱり不意に現れて、悪い遊びに誘ってきたり、要らぬ夜食を食べようとごねたりする。あいつだけは許せない。あいつさえいなければ。
けれども、よくよく考えてみよう。誰より自分を知ってくれていて、あいつこそ、自分の孤独や人知れない優しさを芯から理解してくれる。かけがえのなさは本物だ。
付き合い方を知ることだ。きらいになっても見捨てない。なぜなら、むこうだってこちらを見放すはずはないのだから。弱くて、ぶざまで、とらわれて。そう、あいつは悲しくも愛しいもう一人の自分。
気長にともに歩いていこうか。