PHP研究所主催 2023年度文部科学省後援
第7回PHP作文甲子園 優秀賞受賞作
野口海姫
福岡県折尾高等学校2年
橙色に染まった空に浮かぶ夕日から、目が離せなかった。
高校1年生の春。その日、私は1人の友人と自転車に乗って、家から近くのカフェへ行った。満腹になったあとは、多くの子どもたちでにぎわう広い公園でサイクリングをした。
夢中になって自転車を漕いでいると、だんだん空の色が変わり始めたことに気づいた。そろそろ家に帰ろうかと、2人でゆっくり自転車を押していたとき、ふと気づいた。毎日あるはずの夕日が、その日だけはいつにも増してとてもまぶしい。
すると、友人も同じことを思ったのか、「今日は空がまぶしいね」と言ってきた。もっと近くで見てみたくなった私たちは、いつもとは少し違う帰り道で、空がよく見える川沿いまで行ってみることにした。
川沿いに着いたとき、それまで建物に隠れてよく見えなかった空が一気に目の前に広がった。
私は、思わず自転車を漕いでいた足を止めて、目を見開いた。手を伸ばせば、一瞬で吸い込まれてしまいそうだった。水面に反射する木々と夕日、電柱、橙色に染まった空。1日の終わりをつげる夕暮れはどこか儚く、さびしさを感じた。
私たちは、美しい夕暮れを写真に収めようと、2人で夢中になって写真を撮った。
いつしか、さっきまでの空が夢だったかのように辺りは薄暗くなり、ずいぶんあっさりといつもの空に戻っていた。すぐになくなってしまったけれど、この日見た夕暮れは、今でも鮮明に覚えている。
私のこれまでの人生は、大きな事故に遭ったことも、みんなに認められるような賞を取ったこともない、平凡な人生だ。しかし、友人と見たきれいな景色など、当たり前にある日常のなかで、日にちも覚えていないような小さな出来事が案外忘れられない出来事になり、それが積み重なったとき、大きな幸せになる。
こんな平凡な人生も悪くない。今日もまた、夕暮れとともに、平凡な人生を生きている。