月刊「PHP」2024年3月号 裏表紙の言葉
自転車は人力と器械の調和あっての乗り物である。それゆえ、乗れるまでには修練が必要。何度横倒しになっても、ペダルを踏み続けた人だけが走る体感を得る。その喜びは誰でも記憶に残っていよう。
そうした試練のあとの乗り心地もまた、平地を走る爽快さから、坂道を上る苦しさまで、人生そのものだ。
細いタイヤのたった2点で地面に接するために、ゆっくり走れば不安定に、速く走れば安定する。その感覚を認知すると、もはやわざと倒れようと思っても倒れられない。かくして私たちは行きたい道を、思うまま向かっていける。
あらためて私たちは、自転車に乗ることで、人生最初の学びの体験と、必ず1人で走ってゆける自信をもらったとは言えないだろうか。
春を迎え、新たな旅立ちのときがやってきた。目の前の坂がどれだけ急かは知らないが、自分が行くべき道ならば、よろけることなく進みたい。そのために、体重を乗せて一にも二にも、しっかりペダルを踏み続けよう。そのひたむきさが自分を確かな成長に導いてくれると信じつつ。