PHP研究所主催 2023年度文部科学省後援
第7回PHP作文甲子園 優秀賞受賞作

那須慈雨
岡山県岡山学芸高等学校1年

私が初めて立った大きな舞台は卒業式当日のステージでした。私は中学時代、生徒会長をしていました。卒業式で代表挨拶を任されたのは2月ごろで、私はまだ受験まっただ中でした。
「何をどう伝えるのがいいんだろう」
机に向かった私がまず悩んだのはそこでした。私たちの代は入学と同時に新型コロナウイルスが流行し、たくさんの行事がなくなった3年間を過ごしました。

みんなはどう思っていたのだろう。私がみんなの気持ちを代弁してもいいのだろうか。そう思うとなかなか筆が進みませんでした。あのときみんなはどんな顔をしていただろうか。
思い返すとみんなはこの日々を楽しんでいたことに気がつきました。なくなることが当たり前だった。だからこそ少しのことに馬鹿みたいに喜んで、みんなと過ごせる時間を全力で楽しめていたんだ。そう気がつくと私の肩の荷は少し降り、原稿用紙八枚分の思いを文字に起こし始めました。

当日、私は朝から緊張しっぱなしでした。いよいよ私の番。卒業生代表、そう呼ばれると脈が速くなって、まだ寒いはずなのに顔が熱くなるのがわかりました。卒業生代表、こんなに重たい言葉を今私は背負っているんだ。
「はいっ」
返事をした私はたくさんの視線を感じながら壇上に上がりました。声の抑揚、間の取り方、気持ちの乗せ方、今まで練習したことを思い出しながら一生懸命話を続けました。

終盤に差し掛かり、これが終わればもう中学校生活が終わってしまうと考えると、自然と涙が頬を伝い零ぼれ落ちました。すると私の涙につられたのか、親友やいつもふざけていた男子、保護者の方までもが涙を流して聞いてくれていました。
こんなにもたくさんの人が私の言葉を一生懸命に聞いてくれた。その事実が私は本当にうれしかったし、人生で一番の出来事です。


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