PHP研究所主催 2023年度文部科学省後援
第7回PHP作文甲子園 高校生最優秀賞受賞作
池町美花
兵庫県小野高等学校3年
オレンジ色のカバーの漢字辞典。おじいちゃんに買ってもらった。
たしか、8歳の誕生日プレゼントだ。8歳のチビが自分の誕生日に漢字辞典など頼むものだろうか、と疑問に思われるかもしれないが、自分で頼んだ。
というのも、実は幼少期から漢字が好きだったのだ。6歳上の兄や教師である父が勉強している様子を見て、興味を持ったのであろう。
もともと持っていた漢字辞典でも充分よかったのだが、それには小学校で習う漢字しか載っていなかった。買ってもらったものも小学生用だったが、常用漢字から人名用漢字まで、ものすごい数の漢字が詰まっていた。
見たことのない漢字ももちろん多く、眺めるのが楽しくて仕方なかった。おそらく、この辞典がなければ今の自分はなかっただろう。この辞典のおかげで今でも漢字が好きなのだと、自信を持って言える。
そんな宝物をくれたおじいちゃんが、4月に突然亡くなった。亡くなる2日前に入院したのだが、すぐに退院できるものだと私も周りの人たちも思っていた。
だから、悲しみよりも先に驚きが押し寄せた。信じられなかった。もう二度と会えないことに対する、恐怖に近い辛さも感じた。人が亡くなるとはこういうことなのかと思い知った。とにかく、今までの人生で一番後ろ向きに感情が動いた数日間だった。
おじいちゃんはもうここにはいない。でも、おじいちゃんがくれた漢字辞典はまだここにある。まだまだ現役だ。
ちょっと紙がくたびれているが、久しぶりに開いておじいちゃんにぴったりの漢字を探してみる。「燦」にしよう。おじいちゃんの笑顔はいつもキラキラしていたから。いろんな人に愛されて輝いていたから。
この漢字が似合う明るい人だったから。
そういえば、あの日もそうだった。骨揚げが済んで外に出たとき、誰かが大笑いしているように、オレンジ色の太陽が燦々と照っていた。
おじいちゃんとの思い出も、宝物も、いつまでも燦めいている。