月刊「PHP」2023年11月号 裏表紙の言葉

英雄は窮地に立って真価を発揮する。たとえば、中国三国時代の曹操は、真夏の行軍で苦しんだ。兵は渇きに苦しみ、士気は上がらない。そこで曹操は、「あの丘を越えれば梅の林があるぞ」と叫んだ。すると、兵たちは反射的に梅の酸っぱい味を思い出し、唾液が口中に充たされ、渇きを湿らすことができたという。
また、織田信長が今川義元との合戦で、籠城より奇襲を選択、桶狭間へと出撃したとき、随行したのはわずか数騎だったという。兵が集まるのを待たなかったのは、何より速度を重んじたからだった。そうしないと奇襲にならないのだ。
危機に陥っても活路を見出す人は、不足を嘆くより、その条件下で何ができるかに照準を当てる。とかく世の中、条件がそろわず、足を踏み出せない人がかなり多い。見方を変えれば、それは単なる逡巡、動かなくてもよい理由を探しているだけなのかもしれない。
まだ大丈夫という認識、あてのない誰かの支援。そこを期待するより、危機には果断、そしてみずから行動する勇気を持ちたいものである。

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