月刊「PHP」2023年8月号 裏表紙の言葉
人間は善い人や悪い人、賢い人に愚かな人、情熱的な人や冷静な人など、たくさんの人に分類されるものではない。
一人の人間の中に、たとえば正直な心が宿っている時間が長いときもあれば、不誠実な心に支配されている時間が長い場合もあるように、たくさんの心が顕れては消えていく。
今、戦争をしている人の中にも生まれて初めて残忍な心に染まった人がいるだろうし、良心の呵責に耐え切れず、血の涙を流している人だっていることだろう。
ままならない、まして心ならず自分の信念に反した仕事を強いられるのは悲しいかぎりである。世界や社会が複雑になって、表面から推察できない不条理が、胸の奥の美しい心根を傷めつけてはいないか。
怒りが怒りを呼び、心の中が暴風雨にさらされることもあるだろう。たとえ一時そうなったとしても、人の心根に宿る善性は必ず復元できると信じたい。
人の絆や家族や社会が分断されないように、忘れがちになる自分の内なる無垢な心根だけは守っていこう。心根をけっして腐らせてはならない。