月刊「PHP」2023年2月号 裏表紙の言葉
シラクサの僭主ディオニシオスに仕える青年ダモクレスは、まごうことなき王の栄華と権力こそ人生最大の幸福と信じて疑わなかった。
ある日、その思いを正直に王に伝えたところ、ディオニシオスは彼を饗宴の席に招き、玉座に座ることを許した。ダモクレスは喜んで席に着き、夢見心地になった。
しかし、ふと天井を見上げたとき、そこに一本の剣がぶら下がっているのを認めた。しかも、その剣を吊るしている糸の何と細いこと、切れれば即自分は貫かれてしまう。悟ったダモクレスはあわてて席から逃げ出した――。
有名なダモクレスの剣の逸話である。いかなる繁栄といえども、現実は危うい均衡によって保たれている。ダモクレスの気持ちを、今や世界の誰もが容易に理解できるのではないだろうか。
かつてディオニシオスが味わった贅沢など現代人が驚くには当たらない。しかし、より細くなった糸をいかにしよう。剣を除くか、糸を太くするか。世界の人びとと衆知を集めて解決したい。