月刊「PHP」2022年6月号 裏表紙の言葉

誰しも自分が生きている間は戦争など起きてほしくない。まして、罪のない人たちが戦火に追われ、犠牲者となる現実には胸が痛む。大切な命が無下にされていく。
この混迷の世に「命」から考えることは大切だ。命といえば、何より生命としての命が尊重されなければならない。しかし、命の意義はそれだけではない。
東洋の哲学では、絶対的な働きのことを「命(めい)」と呼び、大いなる宇宙の作用を「天命」、個の肉体を「生命」という。特に古代日本では人間の尊さを重んじるから命名に際しても、その人の生涯に絶対的な意味を持たせ、最後に命と添えてミコトと呼んだ。生きていくことだって命を使うから「使命」、命を運ぶから「運命」となるのだ。
そんな命の意義を思えば、一つひとつの命は唯一無二の絶対的存在であるのは言うまでもない。だから、生き方が阻害されるだけでも、命への冒瀆に等しいわけである。
戦争が続くほど、多くの人生が不条理に晒され、蔑ろにされていく。人の尊厳として命の貴さを願わずにはいられない。