月刊「PHP」2022年5月号 裏表紙の言葉

弓を引く人にとって大切なもの、それは弓に間違いない。しかし、弓は使用の際、革製の手袋をつける。この「かけ」と呼ばれる手袋こそ、非常に重要なので「かけ替え」が「掛け替え」、そして「かけがえのないもの」の語源になったという。
一方で、弓は弦を張らねば役に立たないので、弓に弦を「掛ける」から、「かけがえ」ができないという表現につながったという説もある。
いずれにせよ、弓を使うのに弓以上に必要なものが存在するところに妙味があるとはいえないだろうか。
今さらながら、私たちは実は大変な数の大切なものに囲まれている。親きょうだいも大切、友達も大切。勝つことが大切、物を大切にするのも、無論大切で、邪険にしてよいものなど一つもない。
しかし、大切なものが多すぎる今、本当にかけがえのないものを忘れてはいないだろうか。自分にとって近すぎて、喪われて初めて知るあの人、ある物の存在意義。
流れゆく日常の中で、いつか感謝を述べなければいけない誰か、自分にとって、真に「かけがえのないもの」を絶対に見失ってはならない。