月刊「PHP」2020年9月号 裏表紙の言葉
千変万化の使い道があるものといえば言葉である。
怪我をして泣き叫ぶ子どもを慰め、笑顔にするのは優しい父母の言葉。疲れた病人に寄り添い、励ましを与えてくれるのは看護師さんの明るい言葉であろう。
一方で、弱くなった人の心につけ入り、悪事に誘ったり、その行動に容赦なく意見したりするのは、悪意ある誰かの言葉。そして、人に知恵や知識を授け、喜びや楽しさを伝えてくれるのは、きっと親しい誰かの言葉に違いない。
つまり、言葉こそ誰もが所持する万能の道具。とはいえ、その道具を武器にして人を攻撃するのか、あるいは美しい音楽のように人を癒やすのかは言葉を使うその人に掛かっている。
そして今、世の中では知らない者同士の言葉が大量に飛び交い、知らない誰かに直接影響を与えられるようになった。それは人の論じる自由を広げた半面、人を傷つける危険を助長したとは言えないか。
誰もが言葉には繊細である。だからこそ、言葉遣いには常に気をつけたい。人を貶めるより、人を救う美しい言葉の使い手でありたい。