東日本大震災から9年、復興の先頭に立ち続けて考えたこととは──。

これまでの歩みを振り返り、どんなことを思いますか。

「9年間、復興に取り組んできましたが、時間の経過とともに問題の中身が変わっていったことを実感しています。
震災直後は、瓦礫の撤去や道路の整備など〝目に見える〟ことでした。しかし、徐々に〝目に見えない〟部分が顕在化してきました。
たとえば、子どもの不登校や災害復興住宅での高齢者の孤立などで、心のケアを必要とされる方が増えました。
この分野は、これからじっくりと時間をかけて取り組んでいく課題です」

どのような思いで、復興に取り組んできましたか。

「避難所を訪れると、私の手を強く握って「どうか助けてください」と涙を流す方がたくさんおられました。 
私の座右の銘に「天命に従って人事を尽くす」というものがありますが、人々の訴えに誠心誠意応えていくことが私の“天命”だと思いました。 
生活再建を最優先に進めながらも、それと同時に、漁業権を民間にも開放する特区、仙台空港の民営化、大学医学部の新設などの創造的復興案を国に申し入れ、法律改正や規制緩和などを実現してきました。
私は、もともと自衛隊のパイロットをしていたのですが、前職の経験がこの復興に活かせたと思います。リーダーは困難なときこそ、明るく笑顔で前向きな姿勢でいる、ということを常に意識していました」

心に残る印象的なシーンなどはありますか。

「震災から1カ月後の2011年4月に、上皇上皇后両陛下が、宮城県内の避難所を訪問されたときのことです。
被災者の方が、津波で何もかも流されてしまった自宅の庭に咲いた水仙の花を上皇后様に贈られました。
上皇后様は、ご滞在中ずっと、両手で大事そうにその水仙を握りしめ、羽田空港で飛行機から降りられる際にも、まだお持ちでした。被災者に寄り添うお姿に感激しました」

東日本大震災

災害に備えて、私たち一般市民が心がけておくべきことはありますか。

「地震だけでなく、台風や豪雨、大雪など自然災害の多い日本、私たちは歴史や昔の知恵を、もう一度学ぶべきだと思います。
『経験に学ばず、歴史に学ぶ』ということです。
空から東北を見渡すと、古い神社仏閣が残っているのがよくわかります。昔から安全とされる地域に建っているからこそ、今も残っているのです。
神社などで行なわれる地域のお祭りには、防災訓練の意味もあったと聞きます。このように昔の知恵を参考にし、次世代に伝えていくことも私たちにできることです」

この連載「東北レポート」では、約7年間、東北の復興を応援してきました。

「『PHP』誌では、震災から立ち上がっていく方々を、これまで何十人も取り上げてきましたよね。「苦しいときこそがんばろう」と前を向く姿に、私自身、とても勇気づけられました。
まじめで、辛抱強く、仲間を大切にする東北の人たちの強さ・よさを、あらためて感じる連載でした。
このような方々が東北の中心的存在になり、各地域を盛り上げていってくださると信じています」

これからの東北に必要なことは何でしょうか。

「これからの東北に必要なことは「夢」だと思います。
東北から人口が急激に減っていることは事実ですが、これを何とかしたい。
東北6県と新潟県を含めて7県、力を合わせて自分たちの魅力を掘り起こしながら、新たな産業を興して、まずは雇用を増やしていきたいと思います。
そのためには引き続き、みなさんのお力が必要です。
これからも、東北を応援してください。そして、ぜひ東北に遊びに来てください」

取材・文
小泉知加子(女性起業家を応援する新聞マガジン『わんからっとエル』編集長)