月刊「PHP」2019年8月号 裏表紙の言葉

元号を初めて使用したのは中国である。けれども、世界中を見渡しても元号を採用している国は、今や日本だけだときく。古典に典拠して漢字を組み合わせ、時代に称号を名付ける元号文化は、実に意義ある伝統ではないだろうか。

というのは、改元は天皇の御代が替わる場合のほか、ほとんどが日照りや洪水、地震や疫病、火事や戦乱といった凶事のたびに為されてきた。

治世を願いながら乱世になるのが、ありがちな世相の成り行きでもあろう。とはいえ為政者が時代転換の機をとらえ、改元によって世情を一新してきた元号の歴史は、日本人の叡智の結晶であり、平和を願う文化資産だったとは言えまいか。

改元に沸く一方、「明治は遠くなりにけり」ではないが、古い時代が遠ざかる寂しさもある。過ぎ行く時代を愛しむ心を大切にしながら、次代をつくるものと心得よう。

日本人であることと、この時代にめぐり逢わせた僥倖に感謝しつつ、わが国、そして世界中の弥栄を望まずにはいられない。