月刊「PHP」2019年2月号 裏表紙の言葉
人の上に立って立派な仕事をしていた人が、いつしか権力をふりかざすようになったり、堕落したりして人を失望させることがしばしば起こる。
要因は様々で容易に窺い知れないけれど、一つ指摘されるのは、当人のそばからこわい人がいなくなったからだという。
どんな人でも最初から優れているわけではない。芸事、スポーツ、学業や仕事にせよ、師と言えるこわい人がいて、その人による厳しい指導の結果、技芸に上達したり、社会人として成長したりできる。
指導を受けている期間こそ、逃げ出したいとか、早くいなくなってほしいと思うことがあっても、あとになればなるほどそんなこわい人のありがたさに気づくのである。
ただ、どれほど精進していても、こわい人がいなくなれば、自制心が効かなくなり、省みる心を見失いがちになってしまう。それは人の業の深さというものなのだろうか。
そうならないために、自分を律する努力は怠るまい。そして、心の中にあのこわい人の存在を忘れないようにしたい。