月刊「PHP」2018年4月号 裏表紙の言葉

鏡とはありがたい。いかなる時でも、まぎれもない自分を映してくれる。暮らしの中で鏡がなければどれほど不便であろう。自分の身ごなしが望ましい姿かどうかを映し見るために、鏡は不可欠な物である。

自分を映すという点では、お互いの心も鏡に似ているのではなかろうか。人と人が交流する際、感応しあうのが人間というもの。己の傲慢なふるまいは相手の傲慢を呼び、謙虚なふるまいは相手の謙譲を惹起する。

時に一方的な思い込みはあるものの、相手が自分に抱いている感情は、自分がその相手に抱いている感情が何がしか投影されているとは言えまいか。だからこそ礼節を尽くせば、礼節を尽くされる。まさに鏡の如くなのである。

人として生きることは、いかに他人とともに生きるかでもある。他人に誠実でありたいと望むなら、何が正しいのかを問いつつ、常に自分を省みる努力が求められよう。その試みのために、相対する人のふるまいをわが姿見として、みずからを律したい。