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第31回山本七平賞 奨励賞『小林秀雄の「人生」論』の著者・浜崎洋介氏、受賞の言葉

2022年11月15日(火)、都内のホテルにて、第31回山本七平賞・奨励賞贈呈式が執り行われました。本年の山本七平賞 受賞作品は該当作なし、奨励賞に浜崎洋介著『小林秀雄の「人生」論』(NHK出版新書)が選定されました。

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第31回山本七平賞・奨励賞贈呈式

本年は、新型コロナウィルスの感染防止の観点から、祝賀パーティは実施せず、受賞者と選考委員、主催者のみで贈呈式を行いました。当日の様子につきましては、下記の動画をご覧ください。

山本七平賞・奨励賞「受賞の言葉」

小林秀雄と言えば、「難解」とか「旧(ふる)い」とかいったイメージがつき纏(まと)っていますが、これほど勿体ないことはない...、それが、『小林秀雄の「人生」論』を書いた最大の動機でした。
小林秀雄という文学者は、日本が西洋文明を受け入れた明治に生まれ、第一次大戦の戦争景気を背景にデモクラシーが語られた大正に思春期を送り、その後の関東大震災と昭和恐慌によって、日本人が一挙に「ぼんやりとした不安」のなかに呑み込まれ、さらに、その不安を宥(なだ)めるために、マルクス主義だの日本主義だのといった観念を語りはじめた危機の時代に登場した批評家でした。しかし、それゆえにこそ小林は、それらの観念を、「様々なる意匠」として退け、己の外側ではなく、内側の「直観」(ベルクソン)に批評の基準を見出し、それを改めて日本人の「人生論」に接続することをめざしたのでした。
ところで、それはまた、戦後復興から高度経済成長を経て、今再び、失われた30年のなかで「ぼんやりとした不安」に呑まれ、「様々なる意匠」に取り憑かれつつある日本人が思い出すべき言葉ではないでしょうか? 小林秀雄の批評は、今こそ読まれるべき言葉です。
この本は、数週間で書き上げた「急拵(きゅうごしら)えの本」ではありますが、その分、小林秀雄との20年以上の付き合いのなか、私の内で確信にまで育て上げられた注釈・解釈しか記していません。それを介して、一人でも多くの読者に小林秀雄の言葉が届くことを祈っています。
このたびは、山本七平賞・奨励賞をありがとうございました。心から感謝申し上げます。

浜崎洋介 (はまさき・ようすけ)氏プロフィール

1978年、埼玉県大宮市生まれ。文芸批評家。雑誌『表現者クライテリオン』編集委員、日本大学芸術学部非常勤講師。日本大学芸術学部卒業、東京工業大学大学院社会理工学研究科博士課程修了。博士(学術)。専門は日本近代文学、批評理論。著書に『福田恆存 思想の〈かたち〉』(新曜社)、『反戦後論』(文藝春秋)、『三島由紀夫 なぜ、死んでみせねばならなかったのか』(NHK出版)、『ぼんやりとした不安の近代日本』(ビジネス社)などがある。

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養老孟司氏による講評

山本七平に『小林秀雄の流儀』という著作がある。小林の没後に、山本が雑誌『新潮』の求めに応じて書いたオマージュだが、そこには以下のような文章がある。「人がもし、自分に関心のあることにしか目を向けず、書きたいことだけを書いて現実に生活していけたら、それは最も贅沢な生活だ。(中略)私が小林秀雄の中に見たのはそれであった」。浜崎洋介氏の『小林秀雄の「人生」論』を読んで、私は上記のオマージュを思い出して、たいへん嬉しかった。山本七平は小林秀雄の著作から、小林の人生の秘密を盗み取ったのである。じつは山本は小林とは直接には面識がなかった。浜崎氏のタイトルが「人生」論となっているのは、この辺りが暗黙の背景となっているのかもしれない。小林、山本と続く日本人の「人生」論の系譜に、浜崎氏の作品が連結している。
「嬉しかった」と書いたのは、山本七平賞の選考には長年携わってきたが、本作品に出会うまでは、直接的に山本の問題意識に関わるような作品には出くわさず、やや寂しい思いがあったからである。浜崎氏は次作『ぼんやりとした不安の近代日本』(ビジネス社)で近代日本の文芸・思想を包括して論じているが、今回の作品の内容は、山本七平賞の奨励賞として十分であろうということで、選考委員全員の承認を得た。

山本七平賞について

山本七平賞は、1991年12月に逝去された山本七平氏の長年にわたる思索、著作、出版活動の輝かしい成果を顕彰することを目的に、1992年5月に創設されました。 賞の対象となる作品は前年7月1日から当年6月末日までに発表(書籍の場合は奥付日)された書籍、論文で、選考委員は、伊藤元重(東京大学名誉教授)、中西輝政(京都大学名誉教授)、長谷川眞理子(総合研究大学院大学学長)、八木秀次(麗澤大学教授)、養老孟司(東京大学名誉教授)の5氏。

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