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第30回山本七平賞『進化思考』の著者・太刀川英輔氏、受賞の言葉
2021年11月11日(木)、都内のホテルにて、第30回山本七平賞贈呈式が執り行われました。本年の山本七平賞は、太刀川英輔著『進化思考』(海士の風)が選定されました。
第30回山本七平賞贈呈式
本年は、新型コロナウィルスの感染防止の観点から、祝賀パーティは実施せず、受賞者と選考委員、主催者のみで贈呈式を行いました。当日の様子につきましては、下記の動画をご覧ください。
太刀川英輔氏による授賞の言葉
このたびは第30回山本七平賞にご選出いただき、ありがとうございます。
この本は生物学的な進化と、発明や社会システムなどを生み出すヒトの創造性の類似から、創造性教育を根底から更新する試みです。 進化と創造の関係は、この数百年のあいだに何度も誤解され炎上してきたテーゼです。歴史上の先人が挑みながら達成されなかった、進化論と創造性の統合に至る困難。またそこに向かえば必然的に、学問同士を再融合する道を歩むことになり、根無草の研究と切って捨てられかねません。しかしこうした針の筵(むしろ)を進んだ先にこそ創造性教育の本質があり、持続不可能な社会を持続可能へと再創造するための観点があると信じて、この本をまとめました。
今回の受賞にあたって、まず選考委員の皆様のお名前と学際性を拝見して嬉しくなりました。なぜなら僕に影響を与えてくれた進化生物学、解剖学、経済学、政治学、法学の5人の先生方から、根無草かもしれないこの探求に価値を認めていただけたのですから、これほど勇気づけられることはありません。選考委員の皆様にとっても、覚悟の要る選定だったと拝察します。本当にありがとうございます。
デザインを極めんとし、再構築した創造性教育の社会実装を目指す私にとって、これはただの本ではなく、一生をかけたテーマの宣言です。自然の叡智こそ、文明の創造的かつ持続可能な更新に生かせる知恵だという確信は揺るぎません。 読者の皆さんが創造的な未来を生み出すために、「進化思考」が役立つことを祈っています。
太刀川英輔 (たちかわ・えいすけ)氏プロフィール
NOSIGNER代表。JIDA (日本インダストリアルデザイン協会)理事長。進化思考家。慶應義塾大学特別招聘准教授。希望ある未来のデザインを目指し、「進化思考」に基づく生物進化を参考にした創造性教育で変革者を育む活動にも尽力するデザインストラテジスト。
八木秀次氏による講評
長い経験・思索の末に辿り着いた独自の発想
知的刺激に満ちた著作だ。読み進めるごとに目の前が開かれ、新しい世界を見る思いがした。
デザイナーとしてすでに名を知られた著者は学生時代からの長い経験・思索の末に「進化思考」という独自の発想に辿り着く。
「創造(イノベーション)」に似た現象が生物の進化にあると気付き、独学で生物学や進化学を学んで得たのは、生物の進化も創造も「変異」と「適応」の繰り返しで生じているという結論だった。 「変異」は「変量」「融合」など9つのエラーのことで、たとえば「変量」では「超大きく」することで全長24mの「シロナガスクジラ」、商店を大きくした「スーパーマーケット」が生まれた。「超小さく」することで最小の哺乳類「コビトジャコウネズミ」、ラジカセを小さくした「ウォークマン」が生まれたなどとする。
「変異」だけでは自然界で生き残れないことから、「適応」が必要になる。「適応」には「解剖」「系統」など4つがあるとする。
35億年の生物の進化を体系化する試みには、選考委員会でも細部に異論があるとの指摘もあったが、それをおいても、生物の進化と創造の近似性の指摘、生物の進化から自然と調和する創造を導き出そうとする試みは著者の発明発見であり、「進化思考」を教育に応用したいとの志を含めて、他に代えがたい優位性があるとされた。
多くの人に読んでほしいとの思いによる丁寧な本作りも評価された。
本書の内容が広く共有され、「創造」に寄与することに期待したい。
山本七平賞について
山本七平賞は、1991年12月に逝去された山本七平氏の長年にわたる思索、著作、出版活動の輝かしい成果を顕彰することを目的に、1992年5月に創設されました。 賞の対象となる作品は前年7月1日から当年6月末日までに発表(書籍の場合は奥付日)された書籍、論文で、選考委員は、伊藤元重(学習院大学教授)、中西輝政(京都大学名誉教授)、長谷川眞理子(総合研究大学院大学学長)、八木秀次(麗澤大学教授)、養老孟司(東京大学名誉教授)の5氏。