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『美貌のひと』刊行&名画「忘れえぬ女」来日記念! 中野京子さん講演会レポート
2019年1月10日(木)、累計発行部数5万9千部と売れ行き好調なPHP新書『美貌のひと』の著者・中野京子さんの講演会が、東京・銀座の「G SIX」にある銀座 蔦屋書店で開かれました。テーマはずばり、「忘れえぬうつくしき人々」です。
今回は、中野京子さんの最新作『美貌のひと~歴史に名を刻んだ顔』(PHP新書)の発刊とともに、その表紙に使われている名画「忘れえぬ女(ひと)」の来日を記念しての講演会。本書に掲載されている作品をはじめ、鑑賞者の目に焼きついて離れない、忘れえぬ美しい人びとが描かれた名画の数々にまつわる物語を中野さんが披露し、50名を超える満席の観客を魅了しました。
イワン・クラムスコイ(1837~87年)の名作「忘れえぬ女」は、ロマノフ朝・帝政ロシア(1613~1917年)の末期に描かれた、「ロシアのモナリザ」とも呼ばれる肖像画の傑作。日本人にも昔から人気があり、今回が8年ぶりの来日だとかで、絵画ファンならずとも、きっとどこかで一度は目にしたことがある作品ではないでしょうか。
馬車の上で背筋をすっと伸ばし、妖艶な眼差しで周囲を睥睨する女性は、まるでロマンティックな世界へと観る者を誘っているかのよう。中野さんによれば、「忘れえぬ女」というタイトルは映画でいう“邦題”で、原題は「見知らぬ女(The Unknown Woman)」だそうですが、潤んだような漆黒の瞳と相俟って、まさにピッタリだと納得がいくタイトルです。
そして、その眼差しの先には何があるのか、どこかからの帰り途なのか、どこかへ向かう途中なのか、そもそも、彼女はいったい誰なのか――。観る者の想像は果てしなく拡がります。一説には、無蓋の馬車に乗っているため、高級娼婦がモデルではないかとか、皇帝アレクサンドル2世の愛人、アレクサンドラ・アリベディンスカヤ(1834~1913年)がモデルではないかと言われていますが、中野さんは、「クラムスコイはロシアの文豪トルストイ(1828~1910年)の肖像画も描いており、彼の小説『アンナ・カレーニナ』の女主人公がモデルではないか」との説を披露。事実、トルストイが同書の執筆を始めた年に、クラムスコイはトルストイの屋敷で彼の肖像画を描いており、「忘れえぬ女」が小説の発表(1873~77年)から6年後の作品(1883年)であることを考え併せれば、頷けるところ大です。
このほかにも、ヴァン・ロー作「エリザヴェータ女帝」、リゴー作「ルイ15世」、クラムスコイ作「皇后マリア・フョードロヴナ」といった華やかな名画の背景に隠された、さまざまなストーリーを語り尽くした中野さん。あっという間に過ぎ去った1時間半で、講演会のあとのサイン会も盛況のうちに終わりました。
ちなみに現在、東京・渋谷のBunkamuraザ・ミュージアムで、「国立トレチャコフ美術館所蔵 ロマンティック・ロシア」が開催中です。1月27日(日)までなので、未鑑賞の方はお急ぎください。
なお、この企画展は、岡山、山形、愛媛を巡回するそうです。
会期や会場など、詳細はこちらにてご確認ください。