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田口幹人さん『もういちど、本屋へようこそ』出版ビジネスセミナーレポート
10月17日(水)に「本の街」東京・神保町で、出版セミナー『「身の丈の本屋」を考える』が開催されました。書店界の有名人・さわや書店(盛岡市)の田口幹人氏が、著書『もういちど、本屋へようこそ』制作秘話から書店の現在・未来までを語り尽くした2時間でした。
『思考の整理学』や「文庫X」など、「ベストセラーを生み出す本屋」さわや書店で、現在は統括店長を務める田口さん。そのお話を聞けるとあって、会場には、書店員、版元の営業、編集者……etc.出版人の参加も目立ちました。
進行役は、出版業界を長年取材してきた文化通信社の星野渉さんです。冒頭から「(田口さんは)あっと驚く棚づくりをするような“カリスマ書店員”ではありませんよね」と言い出す星野さんでしたが……「地に足のついた、“実直な書店員”ですよね」と続けると、田口さんは笑顔でうなずきました。息の合ったやりとりに、会場の空気も和みました。
「ネットで本を買うのは、あたりまえの時代」だからこそ
岩手県生まれではあるけれど、盛岡出身ではない田口さん。60年続いた実家の本屋が自分の代で倒産、故郷から本屋の灯火を消してしまった悔しさ、申し訳なさ――それが、今の田口さんのスタートだったそうです。その後、さわや書店に勤めて10年。盛岡という地域にあって「本屋をどんなかたちで残すか」というテーマで活動してきました。
話題を呼んだ「文庫X」以上の売れ行きにつながっている「帯1(オビワン)グランプリ」という店頭企画や、自治体にはたらきかけて実現している、学校での読書教育や図書館との協働は、ネット書店ではできないことです。
ネット書店が「本屋がない街で本を買う」を可能にしたのだし、これからの時代、ネットで本を買うのはあたりまえ。だからこそ、ただ「本が好きだから」ではなく、本屋というビジネスを維持し、次代につなぐための策を練り、実践しているのです。
「書店とは、人なんです。」
さわや書店ばかりが、孤軍奮闘しているわけではない。――田口さんは力説します。
地元の読者と本との出会いを願って知恵をしぼり、汗をかき続けている、全国各地の「あきらめの悪い」書店員さんたち。その思いやチャレンジを、ご本人に書いてもらった理由は?
進行役の星野さんからの質問への答えは「本当は、自分で書くつもりだったんですけどね笑」。皆さんサラリーマンだし、書けないこともあるのは当然だから……原稿ノーチェックなんて、さわや書店くらいでしょ!とおどけ、会場を沸かせました。ところが、各人が「本音を」「その人らしいの言葉で」書いてくれたといいます。
このほうが、(単著にするより)いろんな視点で「本屋=まもりたい場所」を見たり、考えたりすることができる。そう思ったそうです。その結果、『もういちど、本屋へようこそ』は、田口さんにとって、さわや書店での10年間の「卒業論文」のような1冊になりました。
書店員とは、読者と本をつなぐ人。同じ思いを持つ書店員同士もまた、つながっている。
「だから、書店とは、人なんです」――会場の皆さんも、深くうなずいていました。
セミナー後は、著書の即売会&サイン会。「売る人」から「書く人」になった田口さんの周りには、言葉を交わす人の輪が途切れませんでした。