本書は、祇園の人気芸妓のひとり、小芳が、芸妓になるまでの修業期間である「舞妓」としての日々を綴ったフォトエッセイ。
彼女がこの“知られざる世界”に飛び込んだきっかけ、置屋での修業に始まり、舞妓としてデビューし、さまざまな経験を積みながら成長していく過程が、この世界のしきたり、ルールとともにわかりやすく軽快な口調で語られています。
美しい着物や帯、かんざし、扇子、そして独特の髪型と化粧──舞妓・小芳のきらびやかな撮り下ろし写真も多数掲載。
「芸」、「衣」(衣装)、「粧」(化粧)、「街」(祇園)、「行事」、「お花」(お座敷)など、全10章で構成されています。
うちは、京都の山科というところで育ちました。こう言うと、同じ京都、幼い頃から祇園の舞妓はんは身近な存在やったんやろな、と思われるかもしれません。けど、子供だったうちにとって舞妓はとても遠い存在。目の前で見たこともなかったくらいですから、憧れようもありませんでした。
そんなうちが、なぜ舞妓になったのか……。
そろばん、水泳、スケートと、母はうちにいろいろなお稽古事をさせてくれました。でも、どれも長続きせず、最後に残ったのが、井上流の舞でした。舞妓にとって「舞」は、もっとも大切な「芸」ですが、うちが所属する祇園甲部の舞は井上流です。うちは、小学校三年生から習わしてもらえました。
性に合っていたのでしょうか。舞のお稽古だけは続けたいと思いました。よう覚えてへんのどすけど、それだけ好きやったんどっしゃろねぇ……。稽古場の古い建物も好きでした。そこにいると不思議と落ち着いたのです。
舞妓という仕事を意識し始めたのは、舞を習い始めて二、三年が過ぎた頃のことです。舞のお稽古を続けているというと、「ほな、舞妓はんになれば?」と周囲の人から言われるようになり、「それもええかもしれへん」と、自分でも思い始めたのです。中学三年生のときの進路相談で、「うちは舞妓になる」と言うと、同席していた親は「ホンマに?」とビックリしてましたけど……。
深く考えて舞妓をめざしたわけではありません。けど、今思うと、なるべくしてなった、そんな気がしています。うちが舞妓になったのは、運命やった。そうとしか言いようがないのです。
(本書 壱ノ章「小芳」より)