高橋克彦『風の陣』
著者からのメッセージ
高橋克彦
撮影:大谷広樹
25年ほど前、あるテレビ番組で、伊治呰麻呂(これはるのあざまろ)の存在を知った。呰麻呂が、陸奥を支配する朝廷の役人のトップである按察使を殺した蝦夷であることを知り、衝撃を受けた。

ほとんどの日本人は呰麻呂が朝廷に叛旗を翻した逆賊だと思っているだろう。しかし東北出身の私は、その見方に憤りを感じ、呰麻呂に、火を熾す風のようなイメージを抱いた。東北の歴史が呰麻呂からスタートしているような気がして小説にしたいと思った。

「呰麻呂」ではイメージが悪いので、「鮮麻呂」という字をあてた。物語の前半をリードする人物を、官人として都で出世した蝦夷・丸子嶋足にしたのは、鮮麻呂をあえて脇に置いて都を書くことで、逆に鮮麻呂がいる陸奥を浮かび上がらせようとしたのである。

執筆開始は1993年なので、脱稿するまで17年間、嶋足や鮮麻呂と向き合っていたことになる。「完」と記したときは感無量で、涙が出た。終わったという安堵感と同時に、鮮麻呂の台詞をもう書けない寂しさを味わった。

「風の陣」シリーズは、私が取り組んだ蝦夷四部作のうちの第一作。この後に阿弖流為が主人公の『火怨』が続く。鮮麻呂同様、古代東北に旋風を巻き起こした男の話である。

このシリーズには、時間をかけた分だけ思い入れが強い。嶋足と鮮麻呂は、私の小説家人生の大半を共に歩いてきた、かけがえのない友のような気がするのである。

高橋克彦

高橋克彦氏 直筆サイン

ものがたり
舞台は奈良時代。陸奥の蝦夷たちが中央政界に挑んていった軌跡を描く
8世紀半ば、陸奥で黄金が発見され、これに目をつけた朝廷が陸奥に支配の手を伸ばす。
そんな折、奈良の都で出世を遂げた蝦夷・丸子(道嶋)嶋足は、都を震撼させた政変・橘奈良麻呂の乱に身を投じる。
恵美押勝、弓削道鏡らが権力抗争を繰り広げるなか、陸奥では蝦夷たちの怒りが頂点に達していた。
国府多賀城の役人として蝦夷と朝廷の共存を目指し、腐心してきた蝦夷・伊治鮮麻呂が下した決断とは。
蝦夷たちの熱き闘いを壮大なスケールで描く。


おもな登場人物
(イラスト:吉田光彦)
丸子(道嶋)嶋足
丸子(道嶋)嶋足
(まるこの/みちしまのしまたり)
陸奥国牡鹿出身の蝦夷。
奈良の都で祖国のために心をくだく。

伊治鮮麻呂
伊治鮮麻呂
(これはるのあざまろ)
伊治を治める蝦夷の首長。

物部天鈴
物部天鈴
(もののべのてんれい)
物部一族の若棟梁。
嶋足や鮮麻呂と陸奥のために働く。


坂上苅田麻呂(さかのうえのかりたまろ): 蝦夷に心を寄せる官人。
恵美押勝(えみのおしかつ): 帝を操り強大な権力を手にした重鎮。
弓削道鏡(ゆげのどうきょう): 陰で政治を操る怪僧。
和気清麻呂(わけのきよまろ): 道鏡の前に立ちはだかる官人。
物部水鈴(もののべのすいれい): 天鈴の妹で鮮麻呂に嫁ぐ。
阿弖流為(あてるい): 蝦夷の将来を担うと目される男。

各巻のご紹介
風の陣【立志篇】
第一弾
風の陣【立志篇】

平城京を揺るがす橘奈良麻呂の乱。その渦中に身を投じた丸子嶋足を待ち受けていたものは…。
定価:713円(本体価格648円)

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風の陣【大望篇】
第二弾
風の陣【大望篇】

新たな権力者・恵美押勝の奥州支配の野望に、嶋足・天鈴たちは智略を尽くして立ち向かう!
定価:880円(本体価格800円)

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風の陣【天命篇】】
第三弾
風の陣【天命篇】

女帝をたぶらかして政治を操り、帝位さえ脅かす怪僧・道鏡の台頭に、新たな戦いが始まった。
定価:796円(本体価格724円)

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風の陣【風雲篇】
第四弾
風の陣【風雲篇】

称徳女帝の病に乗じて、復権を企む藤原一族。道鏡の権勢に翳りが…。その時、蝦夷たちは。
定価:755円(本体価格686円)

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風の陣【裂心篇】
第五弾
風の陣【裂心篇】

蝦夷の雄・伊治鮮麻呂、ついに起つ! 狙うは陸奥守の首ひとつ。古代東北の嵐を描いた物語、慟哭の最終巻。
定価:922円(本体価格838円)

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